薬剤師 MVP研修

MVP研修レポート

MVP受賞者には副賞として研修旅行が与えられました。
研修レポートをご覧ください。

2008年度MVP受賞 大丸店 飯塚 俊夫

以下に今回の北海道研修に関する報告をいたします。

北海道での特異的な疾患に関して

北海道では本州にあまりなじみのない疾患が存在する。

「エキノコックス症」。

これはエキノコックスという寄生虫によって引き起こされる感染症の一つである。
エキノコッカス症、包虫症とも呼ばれる。キタキツネやイヌ・ネコ等の糞に混じったエキノコックスの卵を水や食物などからヒトが経口感染する事によって起こる人獣共通感染症である。
卵は人の体内で幼虫になり、肝臓に寄生する。肝臓内で増殖し、致死的な肝機能障害を引き起こす。エキノコックスは扁形動物門条虫綱多節条虫亜綱円葉目テニア上科テニア科エキノコックス属に属する動物の総称である。

患者の98%が肝臓に病巣を形成される。 感染初期の嚢胞が小さい内は無症状だが、やがて肝臓腫大を惹き起こして右上部の腹痛、胆管を閉塞して黄疸を呈して皮膚の激しい痒み、腹水をもたらす事もある。
次に侵され易いのは肺で、咳、血痰、胸痛、発熱などの結核類似症状を引き起こす。経過は成人で10年、小児で5年以上かかるといわれている。
そのほかにも、脳、骨、心臓などに寄生して重篤な症状をもたらす事がある。また、嚢胞が体内で破れ、包虫が散布されて転移を来たす事もしばしばある。内容物が漏出するとアナフィラキシーショックとなる。本虫の引き起こす症状は大型の条虫よりも重篤である。

本来、宿主としてキタキツネがメジャーであることと、北海道という限定された(海で本土とは隔てられた)地域での疾患(風土病)とされてきたが、移民に伴い家畜等にも感染することで、野生から家畜、ヒトへの感染が拡大してきた。更に交通網の発達で海を越え各地への広がりが懸念される。実際、2005年に埼玉県の野犬から虫卵が発見された報告がある。

特に近年は野生であるキタキツネが人を恐れず、というより人が手なずけた結果、感染機会が増加していることも拡大のひとつの要因となっている。
管理された動物園での検疫は徹底してることは容易に想像でき、北海道から東京へ動物園が展開された際も、非常に厳しい検査が行われて開園が延期されたことを記憶されている方もいるだろう。

しかし、都市部から各地方へ移動すると、キタキツネがヒトを恐れずに近寄ってくる、キタキツネがホテルに現れることを売りにしているなど、無防備な接触が懸念される状況も現実にあるのである。近年では年間10名ほどの感染が確認されているようである(北海道エキノコックス症対策協議会より)。
今回の行程ではキタキツネに遭遇する機会はなかったものの、牧場を訪れ家畜と触れ合ったことやエゾシカともかなり近い距離に接近していた。
これは糞尿に触れる確率が高く、感染機会が増加することを意味している。

全体として発生件数が少ないとはいえ、重症化をたどる疾患であるため、旅行などの際は十分に注意する必要があろう。

治療は昔からエキノコックスを手術で取り除くことが行われたが、症状が発現したときにはすでに取りきれないことがほとんどである。
そこで治療薬として内服の「アルベンダゾール(エスカゾール?錠:GSK)」が登場した。本邦では1994年に販売開始されている。
エスカゾール錠200mg:通常、成人にはアルベンダゾールとして1日600mgを3回に分割し、食事とともに服用する。投与は28日間連続投与し、14日間の休薬期間を設ける。

北海道(特に札幌)の疾患事情

現在の北海道の歴史は、開拓・屯田兵によるところが大きい。
半ば半強制的に北海道に移住し、本州と異なる環境の中で生活を営み、仕事に従事してきた。この部分の歴史については各種書物を参照いただき、今回はかつて得た知見も加味し精神科領域に限定した報告を行う。

広大な土地を所有し、隣家との距離が遠いことは、ある意味閉鎖された空間での居住となりうる。また都市部から遠いということは、病気になったとき医療機関への移動が困難であることとイコールと言えよう。更に上述の過酷な環境から、精神的に疲弊することが日常的にあったといわれている。このことから北海道には精神科領域の病院が充実しているとのうわさを耳にした。
この点を検証してみる。

Googleで単純検索したところ、「札幌駅 精神科」で104件のヒットであった(条件を指定した詳細検索は行っていないため、かなり大まかな結果である)。札幌市の人口約190万人。
比較として人口の多い順に東京都区部(約800万人)、横浜市(約350万人)、大阪市(約260万人)、名古屋市(約220万人)を同様に検索した(札幌市はこの4都市についで5番目の人口)。
東京の区部は都庁のある新宿を基点として「新宿駅 精神科」では183件のヒット。「横浜駅 精神科」60件、「名古屋駅 精神科」39件、「大阪駅 精神科」93件であった。
一概に比較はできないものの、札幌の結果人口に比例しておらず、上述のうわさを裏付けるひとつの根拠となると考えられた。
実際にそういった目で札幌駅周辺を歩くと、精神科、心療内科などの病院・診療所が多く目に付くと感じられた。もちろんそれに付随した薬局も。
精神科領域(ここではうつ病をさす)の治療の基本は「ムンテラ(平たく言うとカウンセリングのようなもの)」であることを耳にしている。
一方、ここ10数年、抗うつ薬では各種薬効を持った薬剤が相次ぎ発売され、薬剤使用量が増加している。その中での薬局の役割は、非常に繊細なものになると考えられる。よりいっそう医師との連携が必要になるだろうし、投薬時の説明、接客態度も十分注意が必要であろうと思われるし、支援も十分に行う必要があるであろう。かかりつけ病院にかかりつけ薬局の重要性が大変高いと考えられる。

オーベルは東京、岐阜、北海道、神奈川と多店舗の展開であるため、他店の色々な地域の方との交流することでスキルアップにつなげられる、そんな感想も今回の行程で得られた大きな収穫となりました。